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「配置図集」を用いた初学者向け建築設計教育プログラムの実践と展開

2015年01月31日

2014年日本建築学会教育賞(教育貢献)受賞評:

「配置図集」を用いた初学者向け建築設計教育プログラムの 実践と展開(正会員 松岡 聡+正会員 田村 裕希)

『サイト-建築の配置図集』は、大学学部 1、2 年生向けの建築設計一斉講義においてワ ークブックとして用いる教材である。ル・コルビュジエのサヴォア邸、ライトの落水荘、 ミラノのガレリア、桂離宮など 80 超の世界の名建築配置図が、1/3,500 から 1/200 までさ まざまなスケールで描かれている。すべて一から作成された労作で、250 余頁を埋め尽く している。

各配置図には、いくつかの問いが付いている。これらの問いを座学の講義で取り上げ、学生たちは、三角スケールで測ったり印を付けたり壁に色を塗ったりして図面を読み込んでいく。社会科の白地図帳にヒントを得て開発した教材だという。白配置図に手を加えていくうちに、学生たちは図面の中をあたかも歩いているような感覚になっていく。ニュートラルで一見均質な白配置図から質感をともなった風景が立ち現れてくるから不思議だ。

どれも名作建築が現在の周辺環境と同等にフラットに描かれていて周囲に溶け込んでい る。周辺建物の屋根のテクスチュアや木立など微細に描き込まれている。「知っていたつも りの旧友の、知らなかった半面を見せられた感じ」と推薦者のトム・ヘネガン氏が言うよ うに、周辺環境とともに描かれている独特の配置図は、建築の専門家にも新鮮な発見があ るものだ。配置図に添えられている問いとウェブページがリンクしていて、配置図の新た な読み方を発見してもらうようなしかけになっている。大学教育に限定せず、一般人が建 築めぐりの旅のガイドブックとして携えれば建築を深く学ぶ助けになる。

ウェブ上の空中写真で興味を持った建築に容易にズームインしたり、流行の建築を瞬時 にウェブ上で探せる時代になった。学生たちは、トレンドに敏感で瑞々しい好奇心を持つ 一方、座学でじっくり理論を学ぶことは苦手だ。建築を志して間もない学生たちは、職人 修行的な設計基礎演習とスライド中心の建築理論の講義では飽き足りない。他方、3、4 年 生の建築設計教育では目まぐるしく変わる最新トレンドに引っ張られ、基礎教育との乖離 が課題になっている。そこで、設計基礎教育で、「配置」の概念を核に、適度に学生が手を 動かす講義への転換を模索する本教育プログラムは注目に値する。建築理論科目と設計演 習科目を橋渡しする意義はとても大きい。先端的な設計教育は盛んに試みられているのに 比して、教育上重要だが一般に十分工夫されているとはいえない建築基礎教育において大 きな挑戦をしている点を高く評価した。

よって、ここに日本建築学会教育賞(教育貢献)を贈るものである。

> 研究内容紹介
> 2014年日本建築学会各賞受賞者

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